私は「結婚めんどくさっ」と常々思っている人間です。結婚すればお互いの家系を背負うことになり、姓が変わるかもしれません。たくさんの責任も伴います。
子供がいないなら、別に籍を入れなくてもいいじゃない……。
そう思っていました。
ところが、その甘い考えを180度変える出来事がありました。
内縁夫婦は戸籍上はただの他人
ある女性の相続手続きに付き添ったときの話です。
その女性Aさんは内縁の夫を亡くし、年金や遺産の相続、様々な名義変更に追われていました。
相続や名義変更には、故人の戸籍謄本が必要になります。
内縁者は亡きパートナーの戸籍謄本を取れない
戸籍上「妻」と認められている人物なら、役所で夫の戸籍謄本を請求して、取得して終わり、なんです。
ところが、内縁の妻は内縁の夫にとって戸籍上「ただの他人」。内縁の夫の戸籍謄本を取ることができません。
故人の戸籍謄本を請求できる人は一部の親族のみ
故人の戸籍謄本を請求できる人は、
- 故人の直系の親族(父母・祖父母・子・孫)
- 配偶者(夫・妻)
のみです。
故人の兄弟姉妹でさえ、結婚して両親の籍から抜けていれば他人扱いとなり、「第三者請求」が必要となります。
故人の親族が戸籍謄本を代理請求
Aさんは内縁男性の戸籍謄本を取ることができません。そこで内縁男性の親族に戸籍謄本の請求をお願いすることになりました。
ところが、内縁男性の親、兄弟はすでに亡くなっており、戸籍謄本を取れる直系親族がいなかったのです。
戸籍謄本の請求で相手の親戚に迷惑をかける
直系親族が他界しているため、内縁男性の甥が戸籍謄本の代理請求をすることになりました。ですが、甥・姪は三親等。当然伯父の戸籍謄本は取れません。
役所で事情を話し、第三者請求をすることになりました。
第三者請求は、「内縁男性と甥の関係」を証明する必要があります。
- 内縁男性と甥の父親が兄弟であることを証明する書類
- 甥が内縁男性の兄弟の息子であることを証明する書類
- 甥の戸籍謄本
これらの文書ですね。
あちこちに散らばる文書を求めて、各役所を行ったり来たり。
甥を一日中振り回しました。
交付請求の最後に、甥が請求理由と事情を一筆書き添えて、特例で戸籍謄本を発行してもらえました。
もし内縁男性に行方知れずの肉親がいた場合、Aさんはその肉親を探さなければなりませんでした。
相続の視点から見た「籍を入れる」ということ
Aさんが内縁男性と籍を入れていれば、たった1回、自分で戸籍謄本の申請をするだけで済んだのです。
Aさんは「なんでこんなに手続きが厳しいの!?」とぼやいていましたが、ぼやいていいのは彼女ではなく、甥御さんと役所で親身になってくれた職員さんです。私も振り回されたのでぼやきたいです。
手続きが厳しいのはお役所仕事だからではありません。内縁関係の人間(他人)が簡単にパートナーの戸籍謄本を取れるようになったら、確実に犯罪に利用されてしまいます。
また、Aさんが内縁男性の本籍地を知らなかったことにも驚きました。カップルの同棲感覚で付き合いを続けてしまったのでしょうか。
不十分な法的保護はもちろん問題視するべきです。でもそれとは別に、事実婚のリスクとしっかり向き合わないと、歳を取るほど現実を生きるのが難しくなります。
内縁関係(事実婚)の陰も見つめる
「内縁関係(事実婚)はやめましょう」という話ではありません。
内縁関係を最後まで続けると、残されたパートナーは相続時にいちいちつまづき、周囲の人々に迷惑をかけるかもしれません。このようなリスクを避けるためにも、内縁関係のご夫婦はしっかり相談して、相続などの取り決めをしておいてほしいのです。
生前贈与や遺言書の作成はもちろん、パートナーの相続を放棄するなら、それもひとつの選択肢としてアリです。
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人生のゴールが少しだけ見えてきたアラフィフ、後先考えずに続ける内縁関係は見直す必要があるのではないでしょうか。
一生添い遂げたい相手がいるなら、後で苦労しないように前もって準備をしておいてほしい、と強く思いました。
私も配偶者がいないので他人事ではありません。自分の将来にも思いを馳せてしまう出来事でした。